2017年2月定例会本会議
もりづくり現代技術と林業政策
○副議長(下沢順一郎 君)休憩前に引き続き会議を開きます。
続いて順次発言を許します。
百瀬智之議員。
〔5番百瀬智之君登壇〕
◆5番(百瀬智之 君)林務部関係について、3点伺います。
生産力にたけ、災害に対して安全性が高く、景観的に良好で、生物多様性に富み、維持管理が容易な森林を我々は望みますが、これら全てを同時に満たしてくれる森林はありません。一つの森林において、経済的な生産力の最大化を目指すのか、その他のサービス機能の最大化を目指すのかによって目標とする林型は異なります。また、さまざまな立場の人たちがさまざまな考えを持って森林を見ています。
そこで、政治や行政にとって基本的に大事なことは、相反する意見や要求を持つ人たちの合意形成を得ながら両者の調和を図っていくことです。森林から得られる精神性や文化などとは異なり、生産能力や環境に関しては科学的根拠に基づいて調和を図っていけます。今回は、そのような観点から、合意形成の土台を県行政が提供できているか問うてみたいと思います。
昨年は、木曽谷や北信州を初め、県外では東海木材相互市場や奈良県吉野の山中など、各種の現場を見て回り、林務部や議員の方々にもお世話になりました。また、一昨年に引き続き、個人的にオーストリアを訪れ、川上から川中、川下、それぞれの調査に入った次第であります。
一つ気にとまったのが、オーストリアのオルト森林研修所で受けた森林所有者向けの事業計画についての講義です。半日強の実践プログラムであるものの、現地の方と同じ内容で我々も受講しました。講義内容は、第1に間伐の方法ではなくて、作業道の建設方法でもなくて、まずは山主の森林事業計画の立て方からスタートします。講師いわく、このプログラム構成には重要な意味があり、森林所有者は、自身の所有する森林について、10年単位で、いつ、どこで、何をどのような方法で施業すべきか事業計画をしっかり定めることによって初めて持続的な森林経営が可能になるとのことでした。確かにそれは原理原則のはずですが、聞き進めるうちに、この原理原則をどれだけ徹底できるかがその後の命運を分けるのだと気づきます。
事業計画は山の図面と各区画の資源データで構成され、図面作成は登記簿により正確な面積と場所を把握して樹齢などで区分し、地理情報システム、すなわちGISを使用して描かれます。各区画の資源データは、蓄積量及び年間成長量の把握と樹種の確認、そして次の10年間の施業計画によって構成されます。いずれも、測量機器のほかに、ソフトウエアをフル活用し、ICT技術が駆使されています。
そして、山主の事業計画を支援するのが、日本でもおなじみとなったフォレスターです。彼らは、客観的データを用いて山林全体の資源量や1年間に伐採することができる木材の量を管理し、伐採区画の決定から間伐の方法、作業道のあけ方、木材の販売先確保に至るまで、多岐にわたって森林所有者のサポート業務を遂行します。
当地では、科学的根拠に基づいた情報基盤とそれを駆使する人材基盤という二つの基盤において計画段階から卓越したシステムを築き、言われてみれば、国内の林業先進地でもこの点に相関関係があると確信するに至ります。
そこで、以下、この二つの基盤について具体的にお尋ねします。
初めに、情報基盤に関して、新年度予算案では、改正森林法に基づく次世代森林情報整備推進事業と、ICTを活用した高度な情報管理を実現する産学官連携によるスマート林業推進事業が盛り込まれています。特に、後者については、成功事例を導くための一種のモデル事業として期待を寄せていますが、全体的にはもう一声、二声欲しいところです。
県内の意欲、能力ある森林組合においても、今は地理情報システムが整っていないので履歴情報システムを独自につくって何とか対応しているとのことですが、これらの技術提供に県は十分な役割を果たせているでしょうか。ドローンなどの機器も活用しながらICT環境を集中的に整備し森林資源の蓄積状況や詳細な施業履歴を視覚的に一元管理できる現場と、積み上がった書類とにらめっこしながら、あそこの間伐はどうなっていたっけ、場所もよくわからないし担当者も誰だったか云々という現場とでは必然的に大きな差が出てきます。GISを活用したICT基盤を本庁、現地機関、森林組合などで統一的に整備する必要があるのではないか。林務部長にお尋ねします。
さらに、情報基盤に関する核心的事項として、施業集約の大前提となる境界明確化の問題にはもっと本腰で取り組んでほしいと思います。この件に関しては、指導的役割を果たしている北信州森林組合のほかに、例えば秋田県湯沢市の雄勝広域森林組合でも、昨年から、過去の空中写真の立体視による境界確認に取り組んでいます。森林所有者に集会所などに集まってもらい、参加者全員で空中写真を立体視することで、お互いの記憶を引き出しながら境界確認を行い、その結果、判明した境界線などについて、現在の空中写真から作成したオルソ画像という位置情報を付与した特殊な画像に書き込み、境界の明確化に役立てています。
問題の所在は、声なき森林所有者に対していかなるアプローチを施して需要を喚起するかということですから、現代技術を集中的に取り入れることによって、不明確な境界に科学的なエビデンスの光を当てたり、先を行く森林組合の手法を促進、普及させていく主体的な施策展開が求められています。
かつて、都会的な経済発展が追い求められ、森林はすっかり置き去りにされてしまいました。そもそも、森林所有者が林業への関心を失い、山を放棄し、持ち山の状態も境界すらもわからなくなって、中には自分の持ち山の存在すら知らないケースもあるという今なお続くこの事態に対して、関係者が正面から向き合い膝詰めで合意形成をする姿勢がなければ、森林政策が日の目を見ることはありません。境界確認については国の補助金も準備されていますが、手法も含め、さらなる県単独推進策が必要ではないか。林務部長の見解を求めます。
最後に、人的基盤についてお尋ねします。
日本のように体系的に林務行政が整理されていない制度下においては、民間向けにせっかく技術者養成のための資格や制度を設けても効果は半減してしまうように思います。森林組合の職員が、さながらヨーロッパ型フォレスターの役割を果たし始めているところはありますが、県内のほとんどの地域はそうではありません。森林組合の自己改革におよその望みを託せるほど環境は整っていませんし、また、国が今進めているフォレスター制度も、その程度の研修期間でフォレスターに必要な力を養えるのかなど、内実には幾つかの疑問を覚えます。
一般に、フォレスターは、一つの現場に10年以上勤務する必要があると言われます。その理由は、自分が実施した施業の評価が10年くらいは見続けないとわからないからです。自然を相手にする仕事においては、自分の行ったことが失敗することも多々あり、その反省を次に生かすことこそが林業技術向上の源泉になるとすれば、失敗を受けた成果を見届ける反復学習のためにも、また技術の集積のためにも、同一の現場で10年以上の勤務経験がどうしても必要になるわけです。
さらに、森林・林業にかかわる林業関係者は、林業の不振、不祥事に伴う職員数の削減などによって事務処理的な仕事に追われ、現場に出る機会が減り、それが林業と一般の人たちを結びつける力を一層弱めていることも憂慮すべき事態です。
そこで、名はどうであれ、いわば行政型フォレスターとして、林務部採用時からそれに向けた職種をしっかり設定することを求めます。例えば、長野県の林務部に就職する者の半分は一つの現場に密着した仕事をしてもらい、その人たちは、現行の人事制度上のいわゆる出世はできないかもしれないが、技術者、行政型フォレスターとして誇りを持てる給与体系と林務行政に対して強い発言権が持てることを保障します。従来の林業普及指導員の役割であった森林所有者に対する支援に加えて、より広域的な地域森林経営にコミットしながら、計画の立案と遂行を着々と進めてもらいたいと思案いたしますが、組織づくりについてどのようにお考えか。知事の見解を求めます。
今では日常的に使われるようになった持続可能性という言葉はドイツ語に由来し、もともと林業から出てきた言葉です。今ある森林資源は先祖のおかげ、木を植えるのは子孫のため、世代を超えた発想は林業政策にも不可欠です。長期的視点に立脚し、選択と集中の中で足腰の強い政策を積極展開していただくことを求め、今回の一切の質問を終わります。ありがとうございました。
〔林務部長池田秀幸君登壇〕
◎林務部長(池田秀幸 君)林業施策についての御質問をいただきました。
最初に、GISを活用したICT基盤整備についての御質問でございます。
森林・林業に関する情報につきましては、電子データとして、国、県、市町村、森林組合等にさまざまな形で蓄積がされており、関係者間で共有を進める基盤として地図情報と森林資源の情報などを一体的に扱うことのできるGISの役割は大変大きいと認識をしております。こうした中で、国におきましても、森林資源の基本情報でございます森林簿等について、ICTを活用し、組織の垣根を越えて情報を共有する仕組みの検討が進められております。
議員御指摘のとおり、森林・林業分野におきましても、ICTを活用した新しい技術の開発が急速に進められてきており、航空機やドローン等を用いたレーザー測量によりまして森林情報を高精度で把握することや、高性能林業機械にセンサーを搭載し生産情報等をリアルタイムで収集することなどが進められております。森林・林業におきますICT活用は、まさに日進月歩でございまして、技術的にもさまざまな試行錯誤が行われている段階ではございますが、県といたしましても、森林GISのさらなる向上を図るとともに、ICTに関する最新の技術動向を的確に把握し、林業関係者とともに林業県への飛躍に向けて生産性の向上に努めてまいりたいと考えております。
次に、森林におきます境界の明確化の推進についての御質問でございます。
議員御指摘のとおり、森林の境界は森林管理の基盤でございますが、本県においても山村の過疎化や高齢化によりまして境界が不明となっている森林の増加が深刻となっていることから、境界を明確にすることは森林整備を進める上で避けては通れない最重要課題の一つであると認識をしております。
こうした中で、これまでも国庫補助事業を活用いたしまして、森林整備地域活動支援事業におきまして所有者同士で境界の確認を行う費用の支援を行ってまいりました。森林の境界につきましては、測量を実施し、その成果を適切に管理することが重要でございますが、この事業におきましては、これまで、境界測量の経費は支援対象となっていなかったため、森林組合等からの要望や国の制度変更等を踏まえまして、平成29年度から測量経費を補助対象とすることといたしました。
さらに、県独自の取り組みといたしましては、事業で得られた測量成果を森林簿に反映いたしまして森林管理の基盤データとして整備を進めるなど、市町村や森林組合等と連携をいたしまして、境界不明森林の解消に向けて取り組んでまいりたいと考えております。
以上でございます。
〔知事阿部守一君登壇〕
◎知事(阿部守一 君)私には、林務行政を進めるに当たっての現場主義での体制強化という本質的な問題提起を頂戴いたしました。
林業振興を進めていく上では、これはそれぞれの地域ごとに地域的な条件とか供給可能な資源が異なるという現状があるわけでありまして、それぞれの地域の強みや特徴に精通した職員が存在するということは大変重要だというふうに思っております。また、これまで、県としては、森林・林業に関する知識経験を有する林業普及指導員、この国家資格を取得した職員を地方事務所に配置をして、地域の課題解決に取り組ませてきたところであります。ただ、これから本格的な林業県を目指していくという上で、現状の体制が最適かというと、まだまだ改善すべき点があるのかなというふうに私も感じております。
御質問の中にもありましたように、例えば林業の専門職の人間が補助金等事務的な業務に携わっていることが本当に最適なのかというようなことを考えると、より専門性を生かした人員の配置ということも必要ではないかというふうにも思います。また、本当の意味での林業県に生まれ変わる上では、単なる森林整備の知識経験だけではなくて、やはり林業事業体の経営に対しても指導できる人材ということも重要だというふうに考えております。そういう意味で、今後、この林業県への転換を本格的に目指していく上では、林務部の人員のあり方、体制のあり方、こうしたものも含めてしっかりと考えて再構築していく必要があるというふうに思います。
新しい総合計画の中で、これからの林業振興のあり方ということをしっかり考えていかなければいけない現状にあるわけでありますので、そうした中で、御指摘いただいた人員配置のあり方、専門性の高め方、あるいは林務部行政全体としての体制のあり方、こうしたものについても改めて考えていきたいというふうに思っております。
以上でございます。