2019年2月定例会本会議
まちづくり水辺の賑わい創出
○議長(鈴木清 君)次に、行政事務一般に関する質問及び知事提出議案を議題といたします。
お手元に配付いたしましたとおりの議員から行政事務一般に関する質問及び知事提出議案に対する質疑の通告がありましたので、報告いたします。朗読は省略いたします。
順次発言を許します。
最初に、百瀬智之議員。
〔5番百瀬智之君登壇〕
◆5番(百瀬智之 君)おはようございます。早速質問に入ります。
2015年9月に発生した関東・東北豪雨、鬼怒川の大災害を踏まえ、同年12月に社会資本整備に関する審議会より「大規模氾濫に対する減災のための治水対策のあり方について」と題する答申がなされました。それによると、気候変動によりダムや堤防などの能力を上回る洪水がますます起こると予想されることから、社会の意識を「施設の能力には限界があり、施設では防ぎきれない大洪水は必ず発生するもの」へと変え、社会全体で洪水氾濫に備える必要があるとしています。今までの治水や利水といった川を治めるという考え方から、私たちの生存基盤である自然の川と共存していくという方向に考えを変えていかなければなりません。
また、ダムや高い堤防をつくることで川のすぐ近くまで生活の場を広げてきましたが、それは、鬼怒川のケースのように、一たび計画規模以上の洪水が起こると、その被害も甚大になります。氾濫による被害を受けやすい場所には生活空間をつくらず、被害を受けにくい場所に居住や都市機能を徐々に移転するなど、土地利用の状況を考慮した対策が必要です。
そこで、冒頭に、3カ年緊急対策に関連して防災について伺います。
洪水ハザードマップの公表状況については、県内では昨年9月末時点で55の市と町が公表しているものの、L2、すなわち1,000年に一度の規模と言われる想定最大規模降雨による洪水ハザードマップを公表している市町村は数えるほどしかありません。現状と今後のスケジュールをお示しください。
また、そうはいっても自分は大丈夫だろうという心理が人間には働くといいますから、国では、住民一人一人の適切な避難確保に向け、マイ・タイムラインの作成などを推進しているようです。住民に当事者意識と主体性を持ってもらうため、県ではどのようなメニューを用意しているでしょうか。
あわせて、河川の氾濫による家屋倒壊等が想定される地域住民に対しては、ふだんから警鐘を鳴らし、都市計画を勘案した居住移転等の方策を考えていかねばなりません。いかなる施策を講じているか、以上、建設部長にお伺いします。
さて、文明は川の流れとともにあり、年は水際に発達すると言います。西では、ベネチア、アムステルダムなど河川や運河が繁栄の礎となった歴史都市は多く、東では、例えば長江沿いに上海、南京、重慶などといった名だたる都市が並ぶなど、これらは挙げれば枚挙にいとまがありません。川辺の再開発を活性化の契機とした都市も多く、リバーウオークの再生によって南部有数の観光都市に転じたアメリカのサンアントニオなどは早い成功事例と言われます。
規模の大小はあるにせよ、このような事例は日本国内でも見られますが、では、信州はどうでしょうか。さきのように、1,000年に一度の備えをしっかりと行うと同時に、災害のおそれのない残り全ての時間をそれぞれの水辺のシーンに合わせて有効な施策を打ってきたかといえば、私はそうではないと思います。とりわけ地方の活性化に焦点が当たる今日、裏となった水辺を再び表に変えることは、単に都市の中に憩いの空間をつくるというだけではなく、また未利用地を有効活用するというだけでもなく、それをマグネットにして水辺と都市、あるいは農村部を結びつけながら、新しい地域を再創造する構想力を持つと思うのです。
一つ、松本市の中心部を流れる女鳥羽川を例に挙げてみたいと思います。この川は、長野県の事業として、市街地にほど近い場所については平成14年までに整備事業が完了し、その上流部についても一昨年をもって一通りの改修工事を終えています。まちづくりの観点からもさまざまな経緯をたどってきましたが、近年は、一昨年に「楽しい女鳥羽川を創ろう!」と題したワークショップが開かれるなどしたものの、次のステージに向けたビジョンはいまだ見えてきません。
この女鳥羽川を舞台に、毎年数回、水辺のマルシェというイベントが開かれています。河川敷を利用して、農産品から工芸品まで出店を出したり、作家やアートパフォーマーの企画があったりと、水辺空間のにぎわい創出に係るさまざまな催しがあります。
先日、この実行責任者の方とお話しする機会があり、2011年から始まったこのマルシェは、年々出店数がふえ、今では出店するスペースが足りないほどになっているとのことでした。マルシェに対するニーズはあるし、その意義も大きい一方で、当初のスタッフが仕事の関係や産休などで次々といなくなり、イベントに係るマンパワーが足りず、ボランティア頼みの運営にならざるを得なかったり、自然相手には、河川敷に茂る雑草に手を焼いたり、また、近隣商店街との調整に奔走したりと苦労も多いようです。
女鳥羽川は、江戸時代から船の運搬、舟運があり、明治に入ると北陸からの魚が豊富に運ばれ、女鳥羽川南岸にはたくさんの魚屋が並び、川沿いは大変にぎわっていたといいます。この舟運も、現在の国道19号やJR篠ノ井線が開通するに至って姿を消すことになりました。歴史を傍らに、地域を盛り上げようと奮闘する方々とともに再び川沿いのにぎわいを仕掛けることは、人を引きつける快適な県づくりを目指す知事の方針と合致するのではないでしょうか。長野県のより積極的なアプローチを求めます。
そこで伺います。川が紡ぎ出す自然環境は私たちの生活基盤であり、より魅力的なものにして人々の生活に潤いをもたらすとともに、地域経済の活性化に活用することが望まれます。河川法の改正後、川の改修を行う際など、あらゆる機会を通じて多自然川づくりに取り組むとされてきましたが、国管理の1級河川に比べ、自治体管理河川での浸透は進んでいません。県内各地で断続的に河川の改修工事が行われていますが、県内の多自然川づくりの方針と、それを特に意識してつくられた河川の県内事例を御紹介ください。
平成21年にはかわまちづくり支援制度が創設され、県内では、長野、上田、諏訪湖、伊那の4地区が登録したとお聞きしています。その後は、平成23年度に河川敷地占用許可準則を改正し、要件を満たす場合、営業活動を行う事業者等による河川敷地の利用を可能とした、いわゆる河川空間のオープン化が実施されました。全国的にはオープン化の活用実績が現在累積で60件ほどあるようですが、県内事例はあるのでしょうか。
また、昨今は、国交省が支援する水辺の利用者をふやし、水辺を徹底的に活用する運動、ミズベリングプロジェクトがにわかに活気を帯びています。これらかわまちづくり、河川空間のオープン化、ミズベリングなど水辺空間のにぎわい創出事例について、直近5年間では県内でどのような動きがあったのか、それらをどのように評価しているのか、以上、建設部長に見解を求めます。
この点、ことしの秋ごろをめどに開設を予定している信州地域デザインセンターには大いに期待を寄せています。昨年まで2年間建設委員会でお世話になり、特に都市・まちづくり課とこれらの課題についてさまざまなやりとりをしたことは記憶に新しいですが、創造的で快適な公共空間の形成という意味では長野県はまだまだおくれており、若者を引きつける仕掛けがハード、ソフト両面から足りないと思います。特に、水辺と人々の関係には、散歩、憩い、ビジネス、観光、歴史、文化、祭り、レクリエーション、交通、人の流れ、景観など、再構築されるべきコンテンツが多分に眠っています。水辺空間のにぎわい創出を含め、信州地域デザインセンターに期待する役割は何か、知事の御所見を伺います。
最後にもう一つ、この4年間の政務活動を通じて感じたことを伺います。
地域振興局を設置してもうすぐ2年経過しようとしています。地域で生じている課題や県民ニーズを的確に把握し、スピード感を持って主体的かつ積極的に取り組む組織へという理念に賛同する一方、このままでは依然として地域の持つポテンシャルを十分に引き出せないのではないかと感じています。
というのは、振興局ごとに今年度掲げられた横断的な課題を見てみると、隣接する振興局と重複する事項がかなり多く、激動のグローバル社会で長野県が効果的に成果を上げるにはその枠組みを再考する必要があるように感じます。
例えば、松本地域の課題として掲げられた三つの課題、松本空港の利用促進、大規模地震災害への対応、交通軸の整備による郷土づくりは、いずれも隣接する北アルプス地域や木曽地域を含めた中信地区全域で共有し、推進されるべきもので、片や、北アルプス地域の課題を見てみると、まず冒頭に「北アルプスの雄大な自然と安曇野の田園風景を活かした観光振興」という言葉が出てきます。安曇野市はこっちの振興局に入るんだっけと思う人も多いでしょうが、それはそれとしても、上高地を初め冠たる山々を有する松本、安曇野地域が、同地域とこれまた足並みをそろえて北アルプスに関連する施策を展開したほうが、そのスケールメリットを十分に生かすことができ、最大限の成果を上げられます。
長野地域と北信地域の関係もそれに共通するものがあるでしょうし、ともにリニア関連の事業を前面に押し出す上伊那と南信州の南信地域についても同様のことが言えるのではないでしょうか。
一つの司令塔と簡素かつ明確な指揮系統のもとに圏域内におけるめり張り強化を徹底し、都市部をより都市らしく、農村部をより農村らしく磨き上げ、相互の対流を促進することによって地域内循環が活発化し、複合的、重層的な地域の魅力が出てくるのだと思います。
本日扱った河川で言えば、例えば、山麓から下流に向けて河川敷沿いに整備されたサイクリングロードを自転車で颯爽と駆け抜け、幾つかの行政区をまたいで市街地に入ったら河川空間のオープン化で人々がにぎわう空間になっていたというようなデザイン、あるいは、郊外に整備されたアウトドアの拠点でカヌーやラフティングなどを楽しんだ後、町なかに戻ったら、川沿いに美術館や博物館など文化的な空間が広がっていたというようなデザイン、県内外の誰しもがこのような利益を享受するためには、今の中間圏域行政の枠組みを超えたより広域的なトータルデザインとダイナミズムの中で都市計画や環境政策を一体的に推進する必要があります。
昔の長野県民は大変洞察が深かったと思いますが、そもそも長野県は、四つの平、それぞれが肥沃の地であります。長野県に最もなじみがあり、今再び政策的にも深い連携が求められる四つの平が互いに切磋琢磨する姿こそ新時代にふさわしい長野県の姿ではないでしょうか。
以上を踏まえ、今後は、出先機関は残しながらも、中信、南信、東信、北信の4地域単位をベースに振興局を統合、再編していくべきではないか、地域振興局の今後の展開について伺い、今回の一切の質問といたします。ありがとうございました。
〔建設部長長谷川朋弘君登壇〕
◎建設部長(長谷川朋弘 君)市町村が作成、公表する新たな洪水ハザードマップについてのお尋ねでございます。
県では、平成27年5月の水防法改正に基づき、洪水により重大な被害発生のおそれがある洪水予報及び水位周知34河川において、順次、1,000年に一度の規模と言われる想定最大規模降雨による浸水想定区域図の作成、公表を進めています。これまでに、千曲川、裾花川等6河川で新たな浸水想定区域図を作成して関係市町村に提供しており、これに避難所等を加えて表示させる洪水ハザードマップが飯山市、坂城町で公表されています。
今後は、3カ年緊急対策の予算も活用し、新たな浸水想定区域図の作成を前倒しし、来年度には対象34河川全てで作成を完了する予定です。作成後は、速やかに関係市町村に提供し、技術的な助言を行うこと等により、新たな洪水ハザードマップの早期作成を支援してまいります。
次に、災害に対する住民一人一人の当事者意識と主体性確保についてのお尋ねでございます。
県では、昨年7月の西日本豪雨を踏まえ、ハザードマップのさらなる住民周知を図るために、市町村への説明会を10月に急遽開催したところです。そこでは、住民配布のカレンダーにハザードマップを添付する等のすぐれた取り組みやマイ・タイムラインの事例等を紹介するとともに、既存のハザードマップの再度の周知をお願いいたしました。今後の新たなハザードマップについても、住民に理解され、適切な避難等が行われるよう、作成する市町村を支援してまいります。
さらに、危機管理部、健康福祉部とも連携し、地域に密着した砂防ボランティアの皆さんを講師とした赤牛先生派遣事業により、災害時住民支え合いマップや地域防災マップの作成支援を行い、住民目線での防災教育、啓発活動を進め、住民の当事者意識を醸成してまいります。
次に、氾濫により家屋倒壊が想定される地域住民に対する施策についてのお尋ねでございます。
先ほど申し上げた新たな浸水想定区域図では、河川の氾濫により建物そのものが倒壊するおそれのある区域、いわゆる家屋倒壊危険ゾーンが表示されます。県では、この図を公表するとともに、それに避難所等を加えたハザードマップの早期作成と十分な周知について市町村を支援してまいります。
また、平成26年の都市再生特別措置法の改正により、市町村は立地適正化計画を定めることが可能となりました。その運用指針では、災害のリスク等を総合的に勘案し、居住を誘導することが適当でないと判断される区域は原則として誘導区域に含めないこととされております。 県内では、現在16の市町が計画策定を行っておりますが、ハザードマップ等も考慮し、適切な居住誘導が図られるように技術的助言を行ってまいります。
次に、県内の多自然川づくりの方針と事例についてのお尋ねでございます。
本県でも、河川が本来有している生物の生育環境や景観、親水に配慮した多自然川づくりを河川整備の基本としております。本県では、川幅が狭く、流れが速い河川が多く、多自然川づくりが困難な箇所も多数存在する中、これまでに農具川等で木や石による護岸を実施したほか、現在は遠山川等3河川で自然石を連結した帯工、土砂により緩やかにしたスロープや遊歩道等をモデル的に整備しております。
今後、遠山川等の効果を確認し、他の河川における多自然川づくりの推進に努めてまいります。
次に、水辺空間のにぎわい創出の事例についてのお尋ねでございます。
水辺空間を積極的に活用し、にぎわいの創出や地域振興を図るため、近年では、上田市の千曲川、依田川地区及び岡谷市、諏訪市、下諏訪町の諏訪湖かわまちづくり計画が作成され、国に登録されております。特に、諏訪湖では県が河川空間オープン化セミナーを開催し、実際に民間企業等がカヌー乗り場やカフェの設置等を検討しております。さらに、松本市女鳥羽川でも、県と市が主体となって官民参加のワークショップを開催し、水辺の活用方法の検討を行っております。
水辺空間のにぎわい創出には官民が一体となった取り組みが不可欠であり、こうした動きは大いに歓迎するものであります。県といたしましては、今後も先進地の事例を紹介するなど、さまざまな支援を行って水辺空間のにぎわい創出を促進してまいります。
以上でございます。
〔知事阿部守一君登壇〕
◎知事(阿部守一 君)私には2点御質問いただきました。
まず、信州地域デザインセンターに期待する役割という御質問でございます。
長野県は自然環境に恵まれた資源豊かな県でありますが、若い人たちとお話をすると、まちの魅力をもっと高めてほしいという期待を持っている若者が多いというふうに感じております。そういう意味で、若者を引きつけることができる創造的で快適な公共空間の形成は、県としても重要な課題として位置づけて取り組んでいきたいと思っております。
従来、いわゆるまちづくりにおける行政上の中心となるのは市町村ということで取り組まれてきておりますけれども、まちづくりの課題も専門化、高度化しております。市町村とともに県も積極的に関与して、多様かつ広域的な視点でまちを捉え直して、つくり直していくということが重要だというふうに思っております。
来年度立ち上げる予定の信州地域デザインセンターは、公民学が連携をして、それぞれの強みを生かしてまちづくりを進めていく組織にしていきたいというふうに思っております。行政のみならず多様な視点、そして広域的な視点で課題を解決し、時代に即したまちづくりの実践に取り組んでいきたいというふうに考えております。
御質問いただいております水辺空間の話でありますが、私も、例えば海外の都市再生の事例等は、河川や海などの水辺空間を核にして再生をしている事例がかなり多いというふうに認識をしております。そういう意味で、本県においても、この河川空間をどう利用するかということは、都市再生においては極めて重要なポイントではないかというふうに思っております。
私も、諏訪方面に行くたびに、諏訪湖の水辺空間のさらなる活用を検討してはどうかということを言ってきておりまして、いろいろな検討が地域においては始まっているところでございます。
信州地域デザインセンターにおいては、こうした水辺空間を含めて、信州らしい地域資源を生かした公共空間、快適で若者を引きつけることができるような公共空間づくりに取り組んでいきたいというふうに思っております。
それから、地域振興局の統合、再編をすべきではないかという御質問でございます。
地域振興局のあり方については、いろいろな議論を経た上で設置をしてから2年たったわけであります。地域ごとにさまざまな取り組みが出てきているというふうに思っておりますが、未来に向けていろいろ検討していかなければいけない、改善しなければいけない余地もあるのではないかというふうに思っております。
地域振興局の前は地方事務所というふうに呼んでいたわけでありますが、長野県の場合はどうしても小規模町村が多いということで、市町村支援を中心に考えなければいけないと。これまでは、市町村支援をするときには、ある程度エリアをきめ細かく区切って対応していくということにどちらかというと力点が置かれていたというふうに思いますが、御質問にもありましたように、広域的な観光であったり、森林林業政策であったり、今の10広域の枠組みを超えた取り組みの必要性ということも出てきているわけでありまして、そうした課題にも県として柔軟な対応をしていくということがこれから必要になってきているというふうに思っております。
昨年4月から、県税事務所の課税業務を4所に集約したり、10の広域を均等に扱うのではなく、例えば木曽と北アルプスの地域振興局においては、市町村間連携が進むように課長級の職員を他とは違った配置をしたりということで、画一的な体制ではない方向も少しずつとり始めているところであります。
行政・財政改革実行本部で、持続可能な行政経営体制、そして財政構造の構築ということを目指して取り組んでいくわけでありますけれども、地域振興局のあり方も含め、行政組織のあり方についても、これまでの観点にとらわれることなく、柔軟な視点から検討していきたいというふうに考えております。
以上です。